景気の流れ

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景気の流れ

景気の流れとしては買い主有利、売り主不利の方向へと進んでいた。平成三年に入り、ついに小森商事から契約は白紙に戻すという連絡が入った。小森商事を取り巻く環境も、二十億円の住居を購入できる状態ではなくなっていたのである。契約放棄の連絡をしにO氏宅を訪問する私の心は重かった。そのうえ腹も立っていた。二十億円を超える物件で、たかが二千万円のために契約を取り逃してしまった怒りもあったが、売却した後、誰が住もうとかまわないのに、それにこだわるO氏のプライドに腹が立っていた。この話が壊れた後のO氏の受けたマイナスは大きかった。O氏は田園調布の家がすぐに売れると考え、新しく移り住むべき住宅をすでに契約していた。その代金支払日も迫っていた。しかしその後、物件はなかなか思うようには売れなかった。十九億円台、十八億円台と価格を引き下げて売りに出したが、バブル崩壊が本格化するにしたがい、田園調布の売り物件は多くなり、購入希望者はまったく現れなかった。何事でもそうだが、決断というのはたいへん難しい。とくに多額の金額が絡む不動産売買では、一つの機会の喪失が後々まで大きく影響する。あの時売っておけばよかったという後悔が先に立ち、わずかの期間で何千万円も違ってくると、なかなか思いきった価格では売りに出せない。まさに悪循環に陥ってしまう。O氏はその典型であった。